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SS「生贄の少女」

パニックに駆られた状態で書きましたので、精神が崩壊します。

注意して読んでね★
ゴトンという鈍い音が響いて、傷だらけの蔵の扉に鍵がかけられた。

サクラは泣きじゃくって蒙昧とする頭の奥で、その音が自分に対する死刑宣告の鐘なのだと理解する。
静まりかえった蔵に、申し訳程度に開けられた風通しの穴から、白々と血色を失った月が見下ろしている。
見つめていると、自分の呼吸音が月と同調し、満月が真冬の空気を胸に吸って、また吐き出している幻覚に陥った。

投げ出した腕や足の上を、行き過ぎる雲が影を落としていく。

サクラは凍えて自分の身体をかき抱いた。

月が空気を吸って、大きく吐き出す。
歯の間からこぼれていく音は、生命の証なのにどこか冷たくて機械的だ。

「客体と主体の交差」

不意に暗がりから声が聞こえて、サクラは身を強張らせた。
明かりの漏れる風通しのついた壁に背をつけて、月明かりを頼りに蔵の奥に目を凝らすと、イタズラな浮雲が月明かりを覆い隠し、音もなくサクラの視界を奪った。

「客体は主体の反映であり、主体とは客体の総体である」

少しだけ身を乗り出して、蔵の奥に目を凝らす。村で随一と歌われた黒水晶の目を細めて、サクラはその声の主を捜し求めた。
そこには何も存在しないはずだった。
その蔵は、サクラを殺すための聖域であり、サクラ以外の何者もその立ち入りを許される場所ではない。

蔵はサクラの為だけに存在している。


雲が切れてうっすらと漏れた月光が、蔵の奥の冷たい一対の瞳を反射して、サクラは本能的な悲鳴を上げた。
月は神秘的に、粛々と、仰々しく、もったいぶるようにその姿を現し、
神秘的に、粛々と、仰々しく、もったいぶって、

一体の木造弥勒が浮かび上がった。

「他者に限らず、主体を囲む様々な事柄、物質さえもが全て、主体に対してアフォーダンスする。アフォーダンスをどう受け取るかは主体に依存されており、客体はそのメタファーを正しく主体に伝える事はできない。ここで、客体と主体の間に溝が生まれ、その溝こそが世界を取り巻く事象の全てなのだ」

弥勒の両目は、半ば閉じられ、半ば開かれている。
弥勒の口元は、半ば開かれ、半ば閉じられている。

少しだけ傾けられた首は、繊細に曲線を描き、
印を組む長い指に間接はなく、全ての指の間に張られた水かきが、軟体動物のように顔の脇に添えられていた。

30センチほどの木造の仏像は、サクラを見つめたまま、圧倒的に存在感のある声を発した。
聞いた事もないような美しい声色だが、どこかで常に聞き及んでいるかのように懐かしい声だ。

「あなたは誰?」
「あなたは誰?と聞く事で、貴方は貴方の存在を確かめる。つまり、客体に対する認識は主体に対する認識とリンクする」
「菩薩さまですね?私を助けてくださるの?」

弥勒は、甲高い声を上げて笑った。
サクラは、驚きと恐怖で息を呑み、血液が全身から音を立てて引いていくのを感じた。
声を上げて笑っている間も、その蔑むように投げかけられる視線は微動だにせず、ふっくらと肉の厚い唇は震えもせずに微笑みをたたえている。

「助けるとは、死に誘う事か。それとも生の業火に手を引くことか」

サクラはガタガタと身体を震わせた。
そもそも神仏は人を救うと言われ続けてきた。
しかし、自分の目の前に現れた美しい弥勒は、明らかに自分を蔑み、見下ろし、嘲っている。
柔らかい曲線で作り上げられた完璧な仏は、見たこともないような神々しさで、聞いた事もない難解な言葉でサクラを蔑む。
弥勒は、自分の言葉がサクラには理解できない事を知っているのだ。

知った上で、窮地に追いやられた自分の前に現れ、絶対的な美しさと共に絶望を運ぶ。

その美しさは、何千年も昔から人間の心を離さない中性的な美であり、人間が到底手に入れられない残酷な美だ。

「主体は常に客体との間に関係を結ぶが、その30%しか理解できない。つまりはそれはアフォードによる成功。主体は残りの70%を『未知』と認識するが、これは誤りであり、残りの70%は『誤認』というアフォードの失敗で構成される。つまりはおまえは世界を『誤認』している。しかし、主体は客体の総体であり、この原理の上ではおまえ自身も客体として認識され、世界はおまえを『誤認』している」

サクラは理解を超える言語の洪水を、熱く朦朧とする頭で反芻した。
謎は謎を呼び、理解を超えた恐怖と混乱は、サクラの遺伝子に書き込まれた女の本性を浮き彫りにしていく。

急激に、弥勒に対する自虐の念は、羨望と美に対する妬みの感情に変わった。
むかむかと、吐き気に似た黒い感情は、へその上で渦を巻き、胸をせりあがる。
冷え切った指先が手のひらに食い込み、噛みしめた歯の奥から、低い唸りが漏れた。

なぜ自分がこの蔵に閉じ込められ、殺されなければならないのか。
なぜ自分はこんなにも怯えて凍えているのか。
なぜ自分の前に現れた神は自分を賞賛し、積極的に救おうとしないのか。
なぜ自分は柔らかい曲線と美しい声を持たないのか。
なぜ自分は神の言葉を理解し得ないのか。
なぜ自分は神ではないのか。


サクラは嬌声をあげて、弥勒に飛び掛った。力任せに木造を押すと、あっけなく弥勒は後ろに倒れた。

低く鈍い音が蔵に響いて、乾ききった仏像は、その木目に沿って裂けた。パキパキと軽い音がして、美しい肢体は何本もの溝で覆われる。
それでもなお、瞳は月光を照り返し、はめ込まれた玉は艶かしく、荒ぶるサクラを見下した。

サクラは、台座になっていた天然石を掴み、大きく振り上げて弥勒の瞳に打ち下ろした。

弥勒の水晶でできた瞳と天然石が火花を散らしてかみ合うと、それをきっかけにして、弥勒の木造は青い炎を上げた。

一瞬

弥勒は潰れなかった片目を細く細くすぼめて、美しい口元に満開の笑みを称えた。

ゆらゆらと青と赤の炎は弥勒を包み、裂け目から立ち上がり、弥勒を抱くように、天を突いた。



真冬の蔵は寒くて仕方がない。
凍えて、薄い着物だけでは凍えてしまう。

弥勒を抱いた炎は、サクラの頬を暖め、噴出した汗と涙を乾かし、
見たこともない美しさで蔵を明るく照らした。


自分が、荒ぶる神に捧げられて点けられた炎は、どう考えてもこの炎より美しいはずがない。

くねくねと生物のように、天女の衣が風を受けて舞うように、炎は蔵の壁を焼いていく。

弥勒はなおも微笑んで、サクラを見下ろしている。

「この世の中には主体しか存在しない」

弥勒の言葉は美しい。


サクラは弥勒から逃れるために、自分の感情から逃れるために、生きるために、
焼け落ちた蔵の壁から、月の見守る荒野に逃げた。


月が大きく息を吸い込み、細く長く吐き出す音が耳の奥で響いている。



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テーマ : 自作小説
ジャンル : 小説・文学

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Author:銀きのこ
22年6月に娘を出産。
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