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アップルシードSS「妖刀」

士郎正宗原作「アップルシード」をベースにして、短編小説を書いてみました。
原作をご存知ない方でも楽しんでいただけると思います。

なお、原作に登場するデュナン・ナッツやブリアレオスなどの人物は登場しません。あくまでもサイドストーリーとして、オリュンポスという都市に住む人たちのお話です。

ちなみに「アップルシード」テレビアニメ化されるそうです。
がんばっていただきたいですね。






・・・・・『妖刀』・・・・・



イサオは戦慄した。

嗅いだ事のない異臭が周囲に充満している。雨も降っていないのに地面のコーティングが滑る。







どうしてこんなに暗いんだろう。いつもならヘッドギアのスイッチを切り替えて赤外線モードにする。
だがイサオはその日、オフを満喫しきった後であり、丸腰ではないが、丸腰同然だった。
護身用小型拳銃は持っているが突撃用ライフルは手元になく、
剣菱火研の防弾防刃ウェアは着ているが、LMではない。

イサオは気軽に夜風に当たるために港を歩くという自由を悔いた。

なぜなら、記憶の奥にのこる記憶が、それは血のニオイだと警告しているからだ。
本能のようなものかもしれない。
猿の時の記憶がガラスの引っかき音を嫌がるようなものだ。

港は汚染されて生命の激減した波を寄せ、高く低く耳をくすぐった。

とりあえず、何も見なかった事にして帰ろう。

イサオは踵を返した。



「イ・・・サ・・・オ・・・」


ぞくりと背中に冷たいものが走る。
掠れた声が、小さく波に混じって聞こえてくる。



「イ・・・サ・・・・オ・・・」


あきらめてゆっくり振り返った。
同僚のヤシロが、その場に立っている。

「なにやってんだ。ヤシロ。こんな所で・・・今日は勤務だろ?」

ヤシロは、ひどく鈍い動きで身体を揺すってみせた。
「仕事は、終わった。全て。」
「全て?」
「大日本技研行きの貨物船は出港停止だ。警備ももう必要ない」

警察より重装備をした警備員の仕事はここ数年増加しつつあった。
オリュンポスの人々が望んだのは、犯人を捕まえる事ではなく、犯罪を抑止する事だ。

「意外だね。核でも運ぶのかってくらいに物々しかったあの貨物船が出港しない?じゃあ大日本技研が回収したモノはまだオリュンポスに居座るって訳か?」

ヤシロの姿は暗くてはっきり見えなかったが、そのシルエットから、武装を解いていないのがわかった。
ヘッドギアのゴーグルが、時折思い出したように光る。
昨日は一緒に船の周りを警備した。集まるマスコミを二人で蹴散らした。
「何を運ぶのか」という質問に対して、「企業秘密で教えられない」と答えた。本当はイサオたちにも知らされていなかった。
ヤシロは生来の好奇心に満ちた目で「こいつは最新兵器だろう」と言っていた。
大戦が終わり、ユートピアの実験として作られたこの都市「オリュンポス」に、商売の為ならどこへでも行く大日本技研が「最新兵器」を・・・。
ヤシロはいたずらっぽく舌を出して言っていた。

「オリュンポス育ちの奴にはわかんねえだろうけどな、廃墟でバイオロイドに拾われた奴なら誰でも知ってるぜ。大日本技研が、人を殺しても精神が崩壊しない仕組みの武器の開発をしたってね。」


人を殺しても精神が崩壊しない武器?


何のために?


LMですら、必要なのか問われる世の中に、そんなものが必要なのか?
必要だとしたら、それは


戦時下だ。


「イサオ」

ヤシロが足を引きずるようにして近づいてきたので、イサオは現実に戻った。
いつもなら明るく快活なヤシロが、今日は何かおかしい。


「なあ・・・ここ・・・臭くねえか?」


ヤシロはゴーグルを上げて、イサオの目を見つめた。

「風がでてきたな。ミューズの故郷からの風が」

海から吹き付ける風が生暖かく前髪を撫でる。
ヤシロは顎を上げてイサオを見つめたまま目を細める。
いつもなら明るく快活なヤシロが、今日は何かおかしい。
じりじりと、イサオに近づきながら、その口元からちろりとちいさく舌が覗いた。

「おまえ、怪我してるのか?」

イサオが言い終わる前にヤシロは揺らめき、膝から崩れるように倒れこんだ。あわてて腕を伸ばすとすがりつくようにイサオの胸にヘッドギアが飛び込んでくる。

「メットを脱がせてくれ」

浅い息を吐きながらヤシロがもがく。顎のベルトを緩めてヘッドギアをもぎ取る。

「何があったんだ」
「何も」
「そんなわけないだろう。救護を」

あわてて端末を取り出すイサオの腕を、ヤシロの細い冷たい指先が制した。

「もう少し、こうしていたい」

「は?」

間の抜けた声がイサオの口をついて出た。
するりとその腕をなぞるように、ヤシロの指先がイサオの腕を滑る。
ヤシロは目を伏せて、再びイサオの目を見つめた。うるんでいる。

どこかの貨物船が低い汽笛を鳴らすのが聞こえる。
イサオの背筋を冷たい汗が流れた。

「おまえ、おかしいぞ酔ってんのか」
「酔ってるさ。こういう星の綺麗な夜は愛に酔いたくなる」
「おまえ、本当におかしいぞ。神経麻薬でもやってんのか」

くっくと喉の奥で笑い声を上げて、ヤシロの指先が空を舞う。

「知ってるか?愛は地球を救うんだぜ」
「・・・知らなかった」
「そうだな、おまえさえいれば地球がどうなろうと・・・」

イサオはヤシロの身体を自分から引き剥がした。
頭が混乱して何も考えられない。
ただ、このままだと新しい扉を開く事になりそうなのだけは理解できた。


「一週間前に飲んだときには夜風が寒いって言って俺のコートを羽織って寝てたじゃないか。寒がりのくせに薄着して、いつも焦らして」

ヤシロは首を振りながら身を起こした。ゆっくりした動作だが、怪我の具合はそれほど悪くないようだ。

「まて。おちつけ」
「おまえこそ冷静になって俺を受け入れろ」
「おまえエンジェルのミヨちゃんはどうしたんだ」
「おまえに比べればあんな女、ちょっとでこぼこしているだけさ」

ヤシロはゆっくりと首をかしげながら、それでもイサオを凝視したまま迫ってくる。
イサオの頭は意混乱している。
だが、受け入れるわけにはいかなかった。
適切な言葉をさがして口ごもるイサオにじれたように、ヤシロは倉庫の壁までイサオを追い詰めた。

「わかった。おまえの気持ちはとってもうれしい。だが残念な事に俺とおまえでは生物学的に一緒になる事ができない。常識的に考えてもそうだ。いいか。それはおまえ一人の趣味の世界であって、おれはやっぱりでこぼこした女の方が・・・」

イサオはぬめった地面に足を取られて転倒した。ずいぶん無様な姿だと自分でも思った。
かろうじて受身は取れたので、頭を強打する事はなかった。
両手を突いて、地面から起き上がる。

ガイアからの飛行船の誘導灯が、舐めるようにイサオを照らし、イサオの眼前の生首を照らし、血の滴る日本刀を持ったヤシロを照らした。

イサオの身体が再び硬直する。

「イザワ大佐・・・」
掠れた声で故人を呼んだが、大佐はそれに答える事はすでにできなくなっていた。

地面から生えたように置かれた大佐の目はカッと見開いてイサオを凝視している。歯をむき出しにして、まるで威嚇するようだ。

「おまえ、ヤシロ、おまえがやったのか?」
「嫉妬すんなよ」
「いかれてやがる!」

ヤシロはにっこりと微笑み、血で濡れた日本刀を横に凪いだ。大佐の血が、夜の闇に溶ける。

「上司だったが、たしかに大佐にも惚れてた。だがそれももう過去の事さ。今はおまえしか見えない」
「現実をちゃんと見てくれ。おまえ自分が何をしているかわかってるのか?」

ガイアが再び港に光を投げた。日本刀がきらめく。
ヤシロは刀を握った右手を突き出した。

「愛してる」

ガイアの明かりは一瞬だがはっきりと、ヤシロの姿を浮かび上がらせた。







迷彩であるはずの軍服が、どす黒い血の雨に濡れている。
多分、その量は、一人だけではないだろう。

「おまえ!!何人やったんだ!!」
「全員さ。全員愛していた。みんな俺を受け入れてくれた。なんて幸せなんだ」

イサオはすばやく護身用拳銃を引き抜いた。同時にヤシロがとびかかってくる。
咆哮と共にイサオは引き金を引く。

一発。

二発。

三発。

最後の弾がヤシロの右腕を打ち抜いた。言葉にならない叫び声と共にそれでもヤシロは刀を振り下ろした。
右に身体をそらしながら、イサオは残りの弾を打ち続ける。

轟音が港に響きわたり、ヤシロの右腕は日本刀と共に引き千切れて地面に落ちた。ヤシロは刀を拾おうと左手を伸ばす。
イサオは思い切り、弾切れになった拳銃をヤシロの顔面に投げつけた。
ヤシロは鼻を押さえて倒れこむ。

もう、武器がない。
だが、こいつを殺さなければいけない。危険なこの男を野放しにするわけにはいかない。
昨日まで仲間だった。一緒に何度も飲みに行った。気を許していろいろ語った。

だがこいつは、上司や仲間を殺した。

様々な葛藤が渦を巻いてイサオの身体を震わせた。


人間を殺した事がなかった。


地面に落ちた腕が、それでもなお日本刀を握っている。
手を伸ばすと、日本刀は妖しく煌いた。

「まて!それに手を出すな!」
ヤシロが、口端を泡立たせて叫んだ。

なんて美しい刀なんだろう。

銃撃で震えが止まらない手を伸ばす。
すると、日本刀の鍔が軽い音を立てて変形し、何本ものコードが飛び出してきた。
コードは赤や青など鮮やかにコーティングされていて、まるで生きているようにくねくねと空中で身を躍らせた後、一斉にイサオの腕に刺さった。
皮膚を貫いたコードは更に細い針を深くイサオの腕に打ち込んでくる。
不思議と痛みは感じなかった。
違和感だけが、腕をせり上がってくる。

「・・・大日本技研・・・ポセイドンの兵器」

人間の脳に「腹側被蓋野」という場所がある。ここにドーパミンが発生すると、生き物は食を忘れるほどの快楽に浸れるのだという。
今、イサオの腕に打ち込まれたナノマシンは脊椎を移動し、この脳細胞に取り付いた。

イサオにもう「人を殺す事」への罪悪の念は消えている。
ただ、目の前のこの男が愛しいのだ。

「おまえを愛している」



ガイアが投げた光を受けて、妖刀が夜空に、美しく煌いた。






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テーマ : アップルシードSS
ジャンル : 小説・文学

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No title

おおードキドキしたーっ
ちょー思わぬ展開やった・・。
そういえば いつも思わぬ展開かも。
久しぶりのお話、堪能しました。
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22年6月に娘を出産。
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