FC2ブログ
コンテントヘッダー

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
コンテントヘッダー

アイリーンの鳥

久しぶりに小説を書いてみました。



今回は、大好きな鬼塚ちひろのナンバーをyoutube様で発見したので貼っておきます。
短いですが、BGMにお使いください。画像はないので、見ていても動きません。自分でスクロールしてください。


では、どうぞ






・・・・・

アイリーンはすっかり静かになってしまった家族の食卓に座り、そっと小さなため息をついた。

初夏の日差しはいよいよ強く、窓の外では寒さから開放された木々が伸び伸びと葉を茂らせている。
恵の雨が大地を濡らし、肥沃な土の香りが全てのものを優しく包み込む。虫達は地中から這い出し、蕾は柔らかくほころび、人々の歩みはいつもより一層緩やかだ。

小さく流れるラジオから、ピアノの弾ける音が聞こえる。

その音に反応したのか、白い小鳥が一羽窓辺に留まった。アイリーンが息子からもらった文鳥に挨拶をしているのだ。
高く高く。小鳥のささやきはアイリーンの耳をくすぐる。
「この文鳥、僕や母さんにそっくりだ」
息子はそう言って笑った。
笑うと八重歯が片方小さいのがよく見えた。本人は気にしていたが、アイリーンはその幼く見える笑顔が大好きだった。
文鳥は灰色の羽をばたつかせて窓辺の小鳥になにやら訴えている。
尾羽に向かって美しく色調を変える灰色は、羽を動かすと太陽に映えて銀色に光る。
文鳥は黒い丸い目をしばたたかせて籠の檻にしがみついた。

「父さんが死んで寂しい?」
息子は具の少ないスープをほおばりながら、アイリーンと視線を合わせないように言葉を紡ぐ。
「いいえ。貴方がいるからね。貴方は自慢の息子なの。母さんと父さんの」
「はやく孫の顔が見たいだろうね」
「そりゃもう。でもあなたは偉い学者様ですもの。これだけ研究室に入りびたりでそんな事望めないわ」
息子はしばらくスプーンで皿をつついていた。

「僕には生殖能力がないんだ。昨日、研究室で調べた」

アイリーンが窓辺に近づくと、小鳥はあわてて飛び去った。
文鳥が寂しげに首をかしげるのをあやしながら、アイリーンは窓を閉める。油の切れた金属がきしむ音がして、風が部屋の中に閉じ込められ行き場を失う。

ラジオはニュース番組に変わり、人類の希望を載せたモーセの船がこれから出港するのだと若いレポーターが興奮気味にしゃべっていた。
「スペースシャトルはその首を天空に向け、今まさに出立しようとしています。宇宙に設けられた生活空間、スペースコロニーで、生物の飼育実験が行なわれます。人類が宇宙空間で生活し、恋人を見つけ、子供を生む時代はすぐそこに来ているのです。」

アイリーンは息子の座っていたテーブルを、手のひらでゆっくり撫でた。

木目にいくつかシミがついているが、もうこのシミが増える事はない。

呼び鈴が鳴って、アイリーンは慌てて目元を拭い、戸口に向かった。
「こんにちは。ミセス・アイリーン・ウェイド」
喪服に身を包んだ青年が、礼儀よく会釈した。喪服はまだ似合わないほどの若さであり、皮膚にニキビの痕が目立った。
「この度はご愁傷様です。僕は大学でウェイド教授から教えを受けていた生徒です。先生がこんな事故に巻き込まれるとは、本当に悔しい限りです。まだまだ教えていただきたい事がたくさんありました。ほんとうに、研究に没頭される先生で・・・」
「お上がりになって紅茶でもいかが?」
「いいえ。僕は学長から直々に、お母様に文書を手渡すように言われて来ただけなので・・・」
青年は慌てて両方のポケットを探り、一通の蝋で封印した文書を差し出した。
「先生の行動は立派でした。今日、スペースコロニーに運ばれる文鳥たちを一羽でも多く救出するために、炎の中に走りこんで行かれました。文鳥は無事にシャトルに乗りこみました。先生は・・・」
「ありがとう。貴方も素晴らしい学者さんになってね」
青年は、目にためた涙をこぼす事無く踵を返し、初夏の日差しに溶けるように去っていった。
その後姿を見送った後、扉を閉めると再び家の中が静かになる。
ラジオのレポーターだけがひそひそとなにやら期待に満ちた言葉を並べているだけだ。

文鳥が籠の中で小さく羽ばたいた。優しい音が部屋に満ちて、アイリーンは少し安らかな気持ちを取り戻した。

蝋を切って文書を開く。

「ミセス アイリーン・ウェイド。貴方の息子さんの指示により、貴方が30年前に凍結していた貴方と貴方の夫との間にもうけられた受精卵のうち、お子さんを妊娠された分をのぞき全ての物を研究に捧げさせていただきました事をここに告白いたします。息子さんは、自らの手で、自らの兄弟である受精卵たちのips細胞の作成に寝食を忘れて取り組まれ、その成果としてヒト由来ips細胞から誕生した生命たちが、本日宇宙に向かって旅立ちます。
息子さんの訃報に心からお悔やみ申し上げます。」

大学の仰々しいロゴの後に、同じく仰々しい学長の名前が刻んであった。
アイリーンはゆっくりと文書をくずかごに入れ、ラジオのボリュームをひねった。
ステレオから、甲高い女性レポーターの興奮した声が聞こえる。
レポーターの声にあわせて、籠の中の文鳥もひときわ高く鳴いた。

「この文鳥、母さんや僕にそっくりだ」

機械の唸る音が聞こえ、大勢の人間達がカウントダウンする声が響く。
アイリーンは籠を開け、文鳥をそっと手のひらに包み込んだ。
給油バルブが外され、熱い蒸気がシャトルの後方から噴射する。
ゆっくりと、窓の外に両手を差し出す。

「3・・・2・・・1・・・」


初夏の日差しはいよいよ強く、窓の外では寒さから開放された木々が伸び伸びと葉を茂らせている。
恵の雨が大地を濡らし、肥沃な土の香りが全てのものを優しく包み込む。虫達は地中から這い出し、蕾は柔らかくほころび、人々の歩みはいつもより一層緩やかだ。




スポンサーサイト

テーマ : 自作小説
ジャンル : 小説・文学

コンテントヘッダー

コメントの投稿

非公開コメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

いつもありがとう。
言葉では言い尽くせません。
久々に書いたので、拙い文章はご容赦ください。
カレンダー
10 | 2018/11 | 12
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
プロフィール

銀きのこ

Author:銀きのこ
22年6月に娘を出産。
更新途絶えてましたが再開します。

最近の記事
FC2カウンター
ブログ内検索
RSSフィード
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。